ぶり
仕事帰りにひとりで入った中華料理店で、15年ぶりに顔を見た人がいた。彼は気づいていない。
目がトロンとしている。ずいぶん気分よく飲んでいるようだ。むこうは座敷。私はテーブル席に。そんなに遠くない。
今もボーダー好きなんだ。15年経つけど変わらないな。私のひとつ年上だったはず。タレ目も変わらないな。あぁ、そんな声だった。交わされる会話から私の耳に届いた幾つかの単語から、仕事も変わっていないとわかった。一緒に来ているのは少し年下の男性だ。餃子定食を食べながら、ふと視線を落とす。左手の薬指に指輪はない。ということはまだ、なのか。ふーん。
と、探偵ごっこをした夜でした。
彼とは特に縁はない。私の友が告白したけれど、実らなかった相手だ。
一度紹介してもらったことがあり、そのときの記憶が残っていたようだ。友はその後良い人と出会い、幸せになっている。
そんな彼を見ていたら、ふと、彼に想いを寄せていた友のことを思い出した。彼女とは喧嘩をしたわけじゃないのに、気づけば10年も連絡をとっていなかった。どうしても会いたくなって、連絡してみたらちゃんとつながった。
アタ元気?あぁそうだった。私のことをアタと呼ぶのは彼女くらい。10年ぶりに会うことになって楽しみで仕方ない。何着ていこうかな。服屋で働いていると伝えたら驚いていた。まずはどこでランチをするか決めなくちゃ。行こうとしたお店は全部休みだった。
あのときの彼が、思いがけず10年の空白を埋めてくれた。ありがとう。人生、何が起こるかわからないものだな。
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@asako_dhal