憧れの大人を見つける

隣でY君に向けて言っていたデザイナー水谷の言葉が自分ごとのようにしばらく頭を離れませんでした。自分にとって尊敬する大人はだれだろう。日々その事を考えていたら、不思議なもので、心鷲掴みにされる存在に出会いました。ご存知の方も多いかと思いますが、料理研究科の土井善晴さんです。長年に渡り食に携わり、たくさんの経験を経て、和食を中心とした日々の食事についての発信をしていらっしゃいます。

土井先生に出会ったのは、一汁一菜という本からです。毎日の食事はご飯と具沢山の味噌汁、それにちょっとしたおかずがあれば十分だよ、というお話し。毎日の食事については世の中にいろいろな意見があります。1日3食食べなさい、30品目は必要。タンパク質を摂りなさい。毎日これを摂取していれば大丈夫。そのひとつひとつを経験していくうちに、本当に大切なことはなんなのか。世の中の言葉に惑わされていないのか。自分の身体は何を求めているのだろう。と考えるようになりました。

自身の経験を振り返ると、からだが1番いきいきしていた時は、畑をやっていた頃でした。その頃は重労働も多かったのですが、驚くほど身体が元気でした。肌身で地球と繋がっていたからだと思います。当たり前のことだけど、日々を忙しく過ごしていると忘れてしまうこと。私達がいただいている野菜は土、水、太陽のエネルギーで大きくなります。なので採りたての野菜はそのまま食べると瑞々しく旨味がぎっしり詰まっている。お米もそうです。動物達は、山や自然で育ったものを食べて大きくなる。塩も重要で、海水により人の手でつくられた釜焚きのミネラルたっぷりの塩を。そうして自然と向き合っていくと、人の手がなるべく加わらない事が、人間にとって最善なのではないかと思うようになりました。素のままで充分に身体に栄養とエネルギーを与えてくれるものを探すこと。味付けだけではなくて料理を口にした時に素材本来の味わいとおいしさを感じ探すこと。何事も集中して考えたり感じていくうちに感覚が成長していく。それらを繰り返し噛み締めることで、身体に栄養が行き渡り、浸透していくのを感じることができる。土井先生に出会って、これらのことをより感じられるようになりました。それからは基本的な食事は、玄米と、今食べたいと思う野菜を茹でて入れてお味噌汁。プラスするのであれば、旬のものは素直にからだが喜ぶし、素材だけで充分に味わいを感じられるので、蒸したり焼いたりして塩をしていただく。タンパク質の摂れるものを加える。それだけでご馳走とおもえるようになりました。

食べることは自分をつくること、日々の選択の中心にそれはあります。そしてそれは食だけではなくて、身につけるもの、身の回りに置くもの全てにおいて繋がっていると思います。うつわで言えば、自分がコレだと思うものを少しずつ集めて、その時々の食材や料理に合わせて盛り付ける。盛り付けることと向き合う。うつわの力を借りて、今は心地よく力を抜いて料理、食べることを身につけていっているように感じています。自分のために料理することも楽しめるようになりました。

最近の楽しみは、出勤時に土井善晴さんとクリス智子さんの「料理を哲学する」というポッドキャストを聞いています。言葉を選ばず、ありのままを話してくださる土井先生のお言葉を浴びて1日の始まり。献立に困った時用に鞄の中に土井先生の著書 名もないおかずの手帳を忍ばせています。