先日、家族の住む大阪に行ってきました。道中のお供にしたのが「大阪」(岸政彦・柴崎友香共著)。名古屋駅から新幹線で一時間足らずの距離にあって、けれど違う空気を感じる場所。都構想や万博にはあまり関心の持てない私だけれど、この本の中に書かれている大阪はとても魅力的で、岸さんが宇宙でいちばん好きな場所だという淀川の河川敷を遠くない未来に歩いてみたいと思っています 。(そして、あわよくば岸さんが一緒に暮らしている愛犬ちくわちゃんに遭遇したいと目論んでいる。)
年に1,2回行く大阪だけれど、まだまだ知らないことばかりだ。知らないということは、参与していないということで、当事者性が薄いということになる。イメージでその場所を語ってしまうことにもなりかねない。自分は、知らないことばかりと思ってはいても、知ったような口を利いてしまっているかもしれないとたまに怖くなる。知らずに言葉を発するということは、知らない間に他者を傷つけてしまっているかもしれない、怖い。そういう時、私は生活史を読む。どんな場所にも暮らしている人が居て、色んな事情をそれぞれが抱えている。そういうことを忘れないために、読む。分かりやすくされていることばかりだな、と思う。大型書店に行って、平積みになっている本のタイトルや、SNS で見るショート動画、言い切りや断言されているものが多いなと感じる。時間をかけてゆっくり染みるようなものより、すぐに効果が出るものが好まれていそうだなとあくまで個人としてだけれど感じている。けれど、瞬時に分からないもので、ずっと考えていられることが私は好きです 。
その土地で行われている政治や文化のイメージが、確かにその街をつくっているかもしれない。けれどそれが全部ではないということを忘れたくない。生活や暮らしにはものすごいグラデーションがあって、その土地には自分が想像し得ないような人たちが住んでいる。それは同時に、自分の住んでいる街にも言えることで、自分が知っている自分の暮らす街は、ものすごく断片的であるということも忘れたくない。
「大阪」は、そういうことをまた思い出せた本でした。
その日、家族と別れたあとにずっと行きたかった場所に寄りました。大阪駅の駅ビル11Fにある「風の広場」という場所。屋根のない広場で、大阪の街が見渡せる。ここも以前読んだ「遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ」(スズキナオ著)の中に出てきて、いつか行こうと思っていたのだ。ちょうど日没前で、若者や年配の人、おそらくそのビルのテナントで働いていて休憩している人、新聞を広げている人、などで賑わっていた。ベンチが空いていたので、日没まで「大阪」の続きを一時間ほど読んだ。スズキナオさんも大阪在住のライターさんで、ナオさんの書く大阪も私は大好きである。ナオさんがいつも風の広場でしているという「風どん」(風の広場で缶チューハイを飲みながらどん兵衛を食べる)をいつかしてみたい。
こんな風にいつまでも考えをめぐらせられる本をこれからも読みたいです。
・最近読み終えた本
大阪/岸政彦 柴崎友香
にがにが日記/岸政彦
社会学者・岸政彦さんの書く大阪が本当に好きです。暮らしがみえる、人間のどうしようもなさや気持ちの揺らぎがみえるような、生きている文章。
テレビ磁石/武田砂鉄
砂鉄さんの新刊、数ある積読を飛ばして、もう読み終えてしまった。好きだから仕方ない。
・今読みかけの本
聞くこと、話すこと。/尹雄大
初めて読む尹雄大さんの本。「コミュニケーション能力」とは対岸にあるような言葉やコミュニケーションについての本のような気がして手に取りました。
・最近買った本
「差別」の仕組み/木村草太
ラジオでお話しているのはよく聞いていて、好きな憲法学者の木村草太さん(ユーモアと賢さのバランスが好き)の本。人権の話でよく一人で悶々としているけれど、何かヒントがあるような気がして購入。
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